あんでっど 八
「そうかね。でも君は詳しく自分の体がどうなってしまったのか解ってはいないだろう。」と、東十条教授は言った。そして、にやりとすると、右手の人差し指を立ててから、
「いいかね。君が来る前、私はずっと見蕩れていたんだが、あれが今の君だ!」と、言いながら、部屋に幾つもあるモニター中でも一番に大きなモニターをビシッと指差した。
「はあ・・・」と、香織は返事をすると、眼鏡をしっかり合わせるようにしながらモニターを視た。
「何です、あれ。」と、一緒につられてモニターを視た桜子が訊いた。
「ふふふ、君達には解らないか。あれこそが、私が長年の間に夢見ていた物に近いどころか、完全にその想像すら超えた仕組みによって構築されなおした、最早、細胞と呼ぶことさえ憚られる木口香織君の生物的構成物質なのだよ。」と、東十条教授が、まるで大袈裟に手を広げて宙を仰ぐ様な仕草で言った。
「で、具体的にどういうことなんですかぁ。」と、桜子が面倒くさそうに再び訊いた。
「いや、だからだな、今、木口香織君、そう、香織君の体を構成しているのは、全身の細胞のDNAを受け継ぎながら急速に入れ替わったであろう、細胞レベルの生物的ナノマシンと呼べる物なのだよ。」と、東十条教授が答えた。
「そうならそうと、簡単に説明してくれればいいのに。」と、桜子が言った。
「何を言うのかね。これは、凄い事なのだよ。なにせ理論的に解明出来ても、現在の技術では実現しえない事が目の前で起きているのだよ。これは、仮に異星人が居て、ワープの仕方を教えられても、地球の現在持っている技術じゃ装置を作れないのと一緒というレベルの出来事なのだよ。」と、東十条教授は言った。
「じゃあ、ホントに宇宙人でも居て通りすがりに香織の体を改造していったとでもいうんですか。」と、桜子が呆れるように言った。
「そうだよ。それなんだよ。さすが、近藤君の奥方だ、察しが鋭い。」と、東十条教授が桜子に言った。すると、それに慶一が付け加える様な口調で、
「だから、さっき僕が香織さんに何かに遭遇しなかったかって訊いたんですよ。」と、言った。
「う・うそでしょう・・・?」と、これには、さすがの桜子も少したじろいだ。だが、ゆっくりと香織の方を見ると、頭の上の環に視線を送り、
「香織・・・本当に、何も覚えが無いの?」と、疑う様な感じで訊いた。
それを聞いた香織は、黙ったまま目を大きく見開いて、小刻みに何度も首を横に振った。
その瞬間。香織の頭の上の環が急にフッと暗くなった。
その夜、半日分の仕事を終えて帰宅した桜子と、香織から採取したサンプルの研究の途中で一旦帰宅した慶一は、自分達の家で、ずっとぼんやりしていた香織を誘い、街の中の近藤家御贔屓のレストランの個室で食事をした。
「それにしても、あらためて言いますが、環が暗くなった時は驚きましたね。」と、慶一が言った。
「ホント、私も電池切れかって思っちゃったわよ。」と、桜子も言った。
「でも、教授の言う通り、環っかが無くなって良かった。」と、香織がのんびりした口調で言った。
「バカね。環っかが無くなったって事は、あんたが完全に生物的に人間じゃなくなったっていう意味じゃないのよ。」と、桜子が香織に言った。
「そうですよ。教授の仮説だと、香織さんの細胞と未知の生体構成物質との入れ替わりの為にはある程度のエネルギーが必要で、それを取り込むために未知の光る環が現れていたっていうのが、今のところの見解ですからね。それが消えたって事は完全に体が未知の構成物質に入れ替わりを終えて、通常の食事でエネルギーを補えるようになったって事になるんですからね。」と、慶一が香織に言った。
「でも、いいんだあー。なんか、さっきから気分も幸せだし。」と、香織は二人の心配をよそに、呑気にそう言うと、目の前のメインの皿にナイフを入れた。
その頃。近藤家御贔屓の店とは程遠い街の中のバーの奥のボックスで宮崎建夫が横嶋という男性と話をしていた。
「それじゃあ、あの木口って娘が本当に怪しいんだな。」と、宮崎建夫が横嶋に言った。
「ええ、両親も家系もあまり良くないですし、専務さんの睨んだ通りかもしれないですよ。」と、横嶋が答えた。
「そうか、じゃあ、私は明日からの娘の通夜から葬式で暇が取れなくなるから、その間も世話になるからな。よろしく頼むぞ。」と、宮崎建夫は言うと、席を立った。
「はい、まかしといてください。それから、詳しい事は先程お渡しさせて頂いた書類で報告させてもらっていますので、しっかりお読みになってください。」と、横嶋は立ち上がると、宮崎建夫を見送りながら、そう言った。
ちなみに、この横嶋であるが、本名を横嶋正といい、職業は探偵で、表向きは主に宮崎建夫の仕事上の汚れた部分を手伝って収入を得ていた。しかし、その実体は少しばかり違っていた。
宮崎建夫が去った後。横嶋は一口ウイスキーを飲むと、席に座りなおし、しばらく目を閉じて静かにしてから、それまでとは打って変わった鋭い顔つきで目を開き、携帯電話を取り出して誰かと通話を始めた。
「ええ、上手くいっていますよ。それより、そちらも上手くいっているようじゃありませんか。・・・・・・ええ、それにしても、今は少しの間だけ家から出ているとはいえ、木口香織があんな名門のお嬢様だなんて、調べた私ですらいまだに想像が出来ないんですから大丈夫ですよ。」と、横嶋は言った。それから、二言三言携帯電話で会話をすると、横嶋は携帯電話を切った。
翌日。朝、早くに目が覚めた香織は、近年稀になく気分の良い朝を迎えていた。
「ねえ、コンちゃん。もう、大丈夫だから、朝ご飯頂いたら、アパートに帰ってもいいかな。」と、香織は桜子に訊いた。
「え、べつに、かまわないけど、お金とか持ってるの?」と、桜子が心配そうに返した。
「うん、部屋に戻れば二週間くらいは普通に暮らせると思うから、その間にアルバイトとかパートとか探してみる。」と、香織が言った。
「あんたの普通に暮らせるって言うのが、ちょっと心配ね。なんたって一週間パンのみみだけで生活してた事あったでしょ。」と、桜子が言った。
「だいじょうぶよ。アタシもう人間じゃないんだし。」と、香織が軽い調子で言った。
「あんた、何か変わった?」と、桜子が香織を見ながら訊いた。
「え?べつに。あ・・・でも、なんか気分が良くなった。」と、香織は桜子に答えた。
「そう。それなら、いいけど。」と、桜子が言った。
「まあ、二週間で仕事が決まらなかったら、余り物でいいから、いつもみたいに、ご飯だけ食べさせてくれないかな。」と、香織が言った。
「いいけどさー。もう、いいかげん意地なんか張らないで実家に頼れば?」と、桜子が言った。
「いや。それだけは、まだ無理。」と、香織が答えた。
つづく
と、いうわけで、今日は天気も晴れて、というか雪が降っていないだけというか、平和な一日でした。
と、いっても、少し仕事で、疲れました。
暇な時の、詰め込む様な急ぎの仕事は年齢的に、既にしんどいです。
今なんか、昼間からモニターの見すぎで、老眼になりかけの目が霞んでおります。
テレビとかならこんなに目が疲れないのに、なぜでしょうね。
一点ばかり見てるからですかね。
まあ、そんなこんなで、今日の猫さんはミチコです。
猫さん達が健康にしていてくれれば、不思議と、それで私は幸せになれます。
「いいかね。君が来る前、私はずっと見蕩れていたんだが、あれが今の君だ!」と、言いながら、部屋に幾つもあるモニター中でも一番に大きなモニターをビシッと指差した。
「はあ・・・」と、香織は返事をすると、眼鏡をしっかり合わせるようにしながらモニターを視た。
「何です、あれ。」と、一緒につられてモニターを視た桜子が訊いた。
「ふふふ、君達には解らないか。あれこそが、私が長年の間に夢見ていた物に近いどころか、完全にその想像すら超えた仕組みによって構築されなおした、最早、細胞と呼ぶことさえ憚られる木口香織君の生物的構成物質なのだよ。」と、東十条教授が、まるで大袈裟に手を広げて宙を仰ぐ様な仕草で言った。
「で、具体的にどういうことなんですかぁ。」と、桜子が面倒くさそうに再び訊いた。
「いや、だからだな、今、木口香織君、そう、香織君の体を構成しているのは、全身の細胞のDNAを受け継ぎながら急速に入れ替わったであろう、細胞レベルの生物的ナノマシンと呼べる物なのだよ。」と、東十条教授が答えた。
「そうならそうと、簡単に説明してくれればいいのに。」と、桜子が言った。
「何を言うのかね。これは、凄い事なのだよ。なにせ理論的に解明出来ても、現在の技術では実現しえない事が目の前で起きているのだよ。これは、仮に異星人が居て、ワープの仕方を教えられても、地球の現在持っている技術じゃ装置を作れないのと一緒というレベルの出来事なのだよ。」と、東十条教授は言った。
「じゃあ、ホントに宇宙人でも居て通りすがりに香織の体を改造していったとでもいうんですか。」と、桜子が呆れるように言った。
「そうだよ。それなんだよ。さすが、近藤君の奥方だ、察しが鋭い。」と、東十条教授が桜子に言った。すると、それに慶一が付け加える様な口調で、
「だから、さっき僕が香織さんに何かに遭遇しなかったかって訊いたんですよ。」と、言った。
「う・うそでしょう・・・?」と、これには、さすがの桜子も少したじろいだ。だが、ゆっくりと香織の方を見ると、頭の上の環に視線を送り、
「香織・・・本当に、何も覚えが無いの?」と、疑う様な感じで訊いた。
それを聞いた香織は、黙ったまま目を大きく見開いて、小刻みに何度も首を横に振った。
その瞬間。香織の頭の上の環が急にフッと暗くなった。
その夜、半日分の仕事を終えて帰宅した桜子と、香織から採取したサンプルの研究の途中で一旦帰宅した慶一は、自分達の家で、ずっとぼんやりしていた香織を誘い、街の中の近藤家御贔屓のレストランの個室で食事をした。
「それにしても、あらためて言いますが、環が暗くなった時は驚きましたね。」と、慶一が言った。
「ホント、私も電池切れかって思っちゃったわよ。」と、桜子も言った。
「でも、教授の言う通り、環っかが無くなって良かった。」と、香織がのんびりした口調で言った。
「バカね。環っかが無くなったって事は、あんたが完全に生物的に人間じゃなくなったっていう意味じゃないのよ。」と、桜子が香織に言った。
「そうですよ。教授の仮説だと、香織さんの細胞と未知の生体構成物質との入れ替わりの為にはある程度のエネルギーが必要で、それを取り込むために未知の光る環が現れていたっていうのが、今のところの見解ですからね。それが消えたって事は完全に体が未知の構成物質に入れ替わりを終えて、通常の食事でエネルギーを補えるようになったって事になるんですからね。」と、慶一が香織に言った。
「でも、いいんだあー。なんか、さっきから気分も幸せだし。」と、香織は二人の心配をよそに、呑気にそう言うと、目の前のメインの皿にナイフを入れた。
その頃。近藤家御贔屓の店とは程遠い街の中のバーの奥のボックスで宮崎建夫が横嶋という男性と話をしていた。
「それじゃあ、あの木口って娘が本当に怪しいんだな。」と、宮崎建夫が横嶋に言った。
「ええ、両親も家系もあまり良くないですし、専務さんの睨んだ通りかもしれないですよ。」と、横嶋が答えた。
「そうか、じゃあ、私は明日からの娘の通夜から葬式で暇が取れなくなるから、その間も世話になるからな。よろしく頼むぞ。」と、宮崎建夫は言うと、席を立った。
「はい、まかしといてください。それから、詳しい事は先程お渡しさせて頂いた書類で報告させてもらっていますので、しっかりお読みになってください。」と、横嶋は立ち上がると、宮崎建夫を見送りながら、そう言った。
ちなみに、この横嶋であるが、本名を横嶋正といい、職業は探偵で、表向きは主に宮崎建夫の仕事上の汚れた部分を手伝って収入を得ていた。しかし、その実体は少しばかり違っていた。
宮崎建夫が去った後。横嶋は一口ウイスキーを飲むと、席に座りなおし、しばらく目を閉じて静かにしてから、それまでとは打って変わった鋭い顔つきで目を開き、携帯電話を取り出して誰かと通話を始めた。
「ええ、上手くいっていますよ。それより、そちらも上手くいっているようじゃありませんか。・・・・・・ええ、それにしても、今は少しの間だけ家から出ているとはいえ、木口香織があんな名門のお嬢様だなんて、調べた私ですらいまだに想像が出来ないんですから大丈夫ですよ。」と、横嶋は言った。それから、二言三言携帯電話で会話をすると、横嶋は携帯電話を切った。
翌日。朝、早くに目が覚めた香織は、近年稀になく気分の良い朝を迎えていた。
「ねえ、コンちゃん。もう、大丈夫だから、朝ご飯頂いたら、アパートに帰ってもいいかな。」と、香織は桜子に訊いた。
「え、べつに、かまわないけど、お金とか持ってるの?」と、桜子が心配そうに返した。
「うん、部屋に戻れば二週間くらいは普通に暮らせると思うから、その間にアルバイトとかパートとか探してみる。」と、香織が言った。
「あんたの普通に暮らせるって言うのが、ちょっと心配ね。なんたって一週間パンのみみだけで生活してた事あったでしょ。」と、桜子が言った。
「だいじょうぶよ。アタシもう人間じゃないんだし。」と、香織が軽い調子で言った。
「あんた、何か変わった?」と、桜子が香織を見ながら訊いた。
「え?べつに。あ・・・でも、なんか気分が良くなった。」と、香織は桜子に答えた。
「そう。それなら、いいけど。」と、桜子が言った。
「まあ、二週間で仕事が決まらなかったら、余り物でいいから、いつもみたいに、ご飯だけ食べさせてくれないかな。」と、香織が言った。
「いいけどさー。もう、いいかげん意地なんか張らないで実家に頼れば?」と、桜子が言った。
「いや。それだけは、まだ無理。」と、香織が答えた。
つづく
と、いうわけで、今日は天気も晴れて、というか雪が降っていないだけというか、平和な一日でした。
と、いっても、少し仕事で、疲れました。
暇な時の、詰め込む様な急ぎの仕事は年齢的に、既にしんどいです。
今なんか、昼間からモニターの見すぎで、老眼になりかけの目が霞んでおります。
テレビとかならこんなに目が疲れないのに、なぜでしょうね。
一点ばかり見てるからですかね。
まあ、そんなこんなで、今日の猫さんはミチコです。
猫さん達が健康にしていてくれれば、不思議と、それで私は幸せになれます。
この記事へのコメント
癒されますよね。
小説、面白いです。楽しみにしております。
猫さん達が元気に遊んだり、のんびり眠っているのを見ると、猫さん達はどう思っているのかわかりませんが、自分が猫さん達を守ってあげたいと思ったり、そんな事を考えてると活力みたいなものも出たりして、そうしたら、居てくれてありがとうなどと感じたりして、なんだか幸せな気持ちなるのです。
小説、拙いですが、読んで頂ければ、とても嬉しいです。
ほんとに、猫さん達は、見ていると、元気になったり愛しくなったり切なくなったり、可愛くて堪らないです。
居てくれるだけで嬉しい。
それだけだけど、凄いことです。